ソーシャルレンディングで顕在化する問題 その2 世界・国内の趨勢はいかに
前回の記事では日刊工業新聞とForbes JAPANの下記記事で「海外ソーシャルレンディング」において、問題が顕在化しつつあることについて述べました。
今回述べたいのは日本のソーシャルレンディングはマーケットプレイスレンダーであるか、バランスシートレンダーであるかについてです。(「そんなのどっちでもいいよ!」と思われる方がいらっしゃることは重々承知しています)。
海外FinTechにおいて「(オンライン)融資」特に注目を浴びている分野です。その融資を取り扱っているプレイヤー(業者)はその運営形態により、「バランスシートレンダー」か「マーケットプレイスレンダー」に大別されます。
国内でもこの2つの単語に言及するFinTechニュース、書籍は増えています。ソーシャルレンディングという単語を用いない日刊工業新聞の様な記事もあります。
これらの単語の意味を知っておくことは国内外の動向を知るために有効かと思います。
では日本のソーシャルレンディング業者はどちらに区分されるべきなのでしょうか?
オンライン融資「海外で成長曲がり角。揺らぐ信頼性」(2016/06/16 日刊工業新聞)
前回も引用しましたが、上記リンクを貼った日刊工業新聞の記事では日本のソーシャルレンディングをマーケットプレイスレンダーに分類しています。以下のような言及があります。
“日本でのマーケットプレイスレンダーを巡る環境は海外とは様相が異なる。事業者が個人から資金を集め、企業やプロジェクトに貸し付ける枠組みが主流だ。貸付先は不動産物件がほとんどだ。大手は参入していない。
最近は、「フィンテック」の追い風もあり、一部メガバンクはクラウドファンディングやビッグデータを活用した小口融資に食指を動かす。米国の例に倣えば、マーケットレンダーが「銀行の既存モデルの破壊者」になる可能性はないが、一定の普及が見込めるだろう。
ソーシャルレンディングという言葉は用いられていません。しかしマーケットプレイスレンダーが「国内ソーシャルレンディング事業者」であることは後に続く文章から容易に分かります。
銀行に台頭することはないだろうが、ある程度の普及は認められるだろうとの、前向きな展望も示されています。
しかし日本のソーシャルレンディングは本当にマーケットプレイスレンダーなのでしょうか?それを検討してみたいと思います。
まず提示したいレポートがこれです。
拡大するマーケットプレイス貸出-FinTechによる新たな融資形態の現状と今後-(2016/01/20みずほ総合研究レポート 注:PDFファイル)
バランスシートレンダーとマーケットプレイスレンダーは以下のように解説されています。
バランスシートレンダー
事業者自ら資金を調達して融資を行う
マーケットプレイスレンダー
自らの資金は用いず、オンラインで融資の仲介を行う。かつては個人と個人を結びつけていいたため、P2P貸出と呼ばれていた。機関投資家が貸し手になることが多くなってきており、マーケットプレイスレンダーと呼ばれるようになった

このような図が示され、それぞれのプレイヤーが分かります。
日本で海外の代表的なソーシャルレンディングサービスとされるレンディングクラブやProsperはマーケットプレイスレンダーとして区分されています。
投資経験者に選ばれているロボアドバイザー「WealthNavi」
信用第一の証券会社が運営するソーシャルレンディング。募集額185億円!豊富な案件を揃えています
次に示すのはこの本です。
2016年5月に発売された「決定版FinTech-金融革命の全貌-」(著者:加藤洋輝、桜井駿)では既存金融機関と異なる、FinTechにおける融資サービスを「オルタナティブレンディング」と定義しています。そして「直接融資型」、「プラットフォーム型」に分けて、それぞれこの様に解説しています。
直接融資型
スタートアップのFinTech企業が自ら融資する
プラットフォーム型
資金の借り手と貸し手をマッチングする

このような図が掲載されています。
ソーシャルレンディングとクラウドファンディングはプラットフォーム型の方に含まれていることが確認できます。
みずほ総合研究のレポートとは用いている言葉は異なりますが、文章から
「バランスシートレンダー=直接融資型」
「マーケットプレイスレンダー=プラットフォーム型」
であることは明確ですね。
日本初にて最大のソーシャルレンディングmaneo、募集額600億円は伊達じゃない
不動産のプロ集団が運用する手堅い案件提出が売りのOwnerws Bookkで安全資産運用
最後の資料です
昨年(2015年)12月に発売された、FinTech革命(日経BPムック)では直接融資型とP2P型を以下のように解説しています。
直接融資型
運営者は自身で資金を調達して、それを融資して金利手数料を得る
P2P型
ソーシャルレンディングと呼ばれ、借り手と貸し手を結びつけるサービスを提供。借り手を審査して格付けを行い、ローン債権を投資家に販売する。運営者は借り手と貸し手から数%の手数料を得る。借り手に融資を行うのは投資家となる。

その解説の際に用いられている図はこのようなものです。
上記3点の文献から
バランスシートレンダー=直接融資型
マーケットプレイスレンダー=プラットフォーム型=P2P型=ソーシャルレンディング
という図式が成立しました。
上記資料でソーシャルレンディングという単語が登場する際には、いずれも「マーケットプレイスレンダー」と定義されていることがわかります。日刊工業新聞の記事にある通り、日本のソーシャルレンディングはマーケットプレイスレンダーなのでしょうか?
私はどうも違うように思えます。
現状日本のソーシャルレンディング業者は資金を調達して、それを自ら貸し出しています。
自らが融資を行うので当然その融資金額は自社のバランスシートに記載されます。maneo(株)のバランスシートを見るとわかりやすいです(赤い枠で囲っているのが融資金額)

なお、maneoスタッフ(Mattias Karnellさん)のブログ「JAPAN CrowdFunder」の1記事「The Appeal of maneo★★★★maneoの魅力」には「maneo lends on its balance sheet[maneoはオンバランスで融資する(自己資金を使って融資する)]と明記してあります。
やはり日本のソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)はバランスシートレンダーには区分するのが正しいと思われます。
自ら貸出を行わず、貸し手と借り手を結びつける役割を果たすのがマーケットプレイスレンダーであり、日本のソーシャルレンディングはそうではありません。
日本では貸金業法の規制により、投資家が海外のように投資商品で「貸し手」になることができません。「ソーシャル」の要素を持つもの、つまり「貸し手」と「借り手」を直接結びつける融資サービスの提供をすることがソーシャルレンディングというのであり、国内サービスは世界基準ではソーシャルレンディングとは呼ばないのかもしれません。
世界においてFinTechの融資分野ではバランスシートレンダーとマーケットプレイスレンダーの双方が頑張っていますが、日本では現状バランスシートレンダーしか許されていないことは指摘しておくべきでしょう。
さてこのことは日本のFinTech、その中で特に伸びが期待できる融資分野で”成長分野が封じられ後れをとった”、ということになるのでしょうか。
それともこの規制のおかげで日本のソーシャルレンディングはうまい具合に、(ガラパゴスだけど)成長したということになるのでしょうか?将来の審判に注目しています。
マーケットプレイスレンダーが今すぐに許されないとしても、せめてバランスシートレンディングにおける貸し手の情報公開は当局に今すぐにでも許してもらえないか、そう願っています。
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答え合わせです。
上記資料を元に作成した図です。現状日本のソーシャルレンディング業者は直接融資を行い、その債権を保有していますのでバランスシートレンダーであるはずです。クラウドクレジットは融資を直接子会社に行っているので、区分的にはバランスシートレンダーだとは思います(というか日本ではマーケットプレイスレンダーは営業できないと思います)。

ただし投資スキームが他社とは大きく異なりますし、この図にあるとおり自らマーケットプレイスレンダーと自負されているので今回は、あえてそのようにしました。その投資スキームに融資を含まないスマートエクイティとTATERU FUNDINGは双方ともに含まれません。
なお、上の図は2016/2/10に開催された、メディア向けソーシャルレンディング勉強会におけるクラウドクレジットの発表の際に用いられたものです。その際に杉山智行社長はバランスシートレンダーが新たなバズワードであると話されていました。FinTechの融資分野ではマーケットプレイスレンダー、バランスシートレンダーという用語が主流になっていくのかもしれません。
なおこの両タイプのレンダーを指して、これまで引用した記事にありますが、「オルタナティブレンダー」と呼ぶようです。既存の金融機関とは別の方法で融資を行う業者という意味かと思われます。
拡大するマーケットプレイス貸出-FinTechによる新たな融資形態の現状と今後-(2016/01/20みずほ総合研究レポート 注:PDFファイル)
再度リンク貼りますが、みずほ総合研究所のレポートは両者のうち、マーケットプレイスレンダーの優勢を伝えるものです。このレポートの発表はマーケットプレイスレンダーの代表的なサービスであるレンディングクラブの不祥事発覚前です。
ロシア発バランスシート型P2P「Blackmoon」が米国進出(2016/07/16 Zuu onlien)
つい先日掲載された上記ZUU onlineの記事は事業縮小や上記不祥事によりマーケットプレイスレンダー(P2P型)が下火になり、バランスシートレンダーが元気だ!・・・という内容にとどまらず、バランスシートとマーケットプレイスを融合させた新融資プラットフォームである、露国ブラックムーン(Blackmoon)がアメリカに進出!という内容になっています。
興味深い記述を引用させていただきます。
"バランスシート融資では、単なるP2P融資(マーケットプレイス融資)よりも、多くの融資金を循環させることが可能であるという点に着目したブラックムーンは、バランスシート融資者とP2Pを利用している投資家などを結びつける発想に至った。「MPLaaS(marketplace lending as a service)は投資家により多額の融資資金を調達できる」という点が、最大の特徴となっている。
世界ではこのままバランスシートレンダーがその資金活用力を活かしてマーケットプレイスレンダーに台頭し主流になるのか?それとも始祖たるマーケットプレイスレンダーが盛り返すのか?現在(ほぼ)すべてがバランスシートレンダーである日本のソーシャルレンディングはどうなるのか?展開に注目しています。


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2016-07-21 │ ソーシャルレンディング │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit